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やさしさにつつまれたなら☆

生き物というものはどんな形態であれ優しさという感覚を必ず持ち合わせているのではないかと自分は考える。

それが様々な感情を内包する我々人間になると尚更だ☆

しかし、それもたった一つのボタンの掛け違いで、なんとも切なくも悲しい、やりきれない状況に成り下がってしまう可能性を秘めている☆

以前、ロケの最中に、超がつくほどの強風に煽られた車の扉が自分の頭に強打し、頭の骨が見えるくらいの怪我を負ってしまったことがあった。

頭の骨は自分では見られないが、処置をした医者や看護婦が言うくらいだから、まず間違いないのだろう。

自分はそんななか頭に応急処置としてありったけのティッシュペーパーを押し当てながら仕事をし続けていた。

しかし怪我をおしてまで働く事は逆に廻りの迷惑になりかねない。

上司は自分に休憩を言い渡し、ふらつく足取りで自分は宿泊所として使っていたホテルへ戻った。

そこの支配人が頭から流血をしている自分を見て驚きながらも非常に冷静な口調で話しかけてきた。

『頭は人間にとって一番大切な場所。こうなったらカッコイイもかっこ悪いもありません。絆創膏があるのでお持ちします。』

思いも寄らぬ方からの優しさに自分は素直に感謝し、その優しさに胸を熱くし、支配人が戻ってくるのを待った。

暫くして支配人が戻ってきて、『少ししみるかもしれません。』と気を使うように一言呟いたとき、自分の頭上でビリビリビリビリッ!

・・・・・・絆創膏を剥がすには余りにも大きく、しかもビニール製の音が鳴り響いた。

視線を頭上に持って行くと支配人は真っ白く大きな湿布のビニールを剥がし、流血し骨が見えているらしい部分にあてがおうとしていた。

一反木綿のように大きく、湿布独特の臭いが頭上近くに接近したとき自分は思った。

『これは危ない』

そしてこうも思った。

『これは絆創膏ではない。』

一応、念のため、支配人に聞いてみた。

『それは何ですか?』

『湿布です。』

一寸の迷いもなく返してきた。 どうやら支配人も自分が持っているものが絆創膏ではなく、湿布であるということは認識できているらしい。

しかし、どんな優しさを持ち寄られたところで、代償となるのはあくまで自分の躰であることは明白だ。

何が良くて、何が悪いかのは判別するのも自分。

勇気を出して自分は支配人に言った。

『それはつけちゃいけないと思います。』

『え?そうでしょうか?』

支配人が驚くことに驚きながら自分は己の躰を守るために、、

『傷口に湿布は逆効果だと思います。』と言った。

『そうですか・・・これは大変失礼いたしました・・・それではどうでしょうか?今あててらっしゃるガーゼとあなたの髪の毛をヘアピンで留めたらガーゼは固定されるのではないでしょうか?』

なるほど。そうかもしれないと思った自分は、

『有り難うございます。じゃぁ・・・。』と言いかけ 目の前に差し出された支配人の掌に既にヘアピンが乗っかっているのを確認した。

この流れとタイミングで既にヘアピンの用意を完了しているところを見ると、意外に出来る人なのかもしれない。

『お願いします。』

やや緊張した面持ちで支配人に託した自分は、三秒後にヘアピンが傷口に当たるという出来事で直ぐに支配人の心遣いを断ることとなる。

支配人・・・きっと凄く親切でいい人なのだろう。

本当にいい人だと思う。

だが、残念な事に少しズレている。

そしてそのズレは自分の躰に新たな災害を呼び寄せる可能性を充分に孕ませている。

自分も痛めた頭を捻りつつ、ガーゼをテーピングか絆創膏で固定してはどうかと発言してみた。 支配人はそれはいい考えですと賛同しながら自分の目の前に絆創膏を置き、自分の頭にガーゼを乗せ、まるでミイラ男を作るかのようにテーピングを頭から輪郭をなぞるようにぐるぐる巻きにしだした。

『え?こういう風に巻くの?』と言いたいところをグッと堪えた自分は逆に、『支配人はガーゼを確実に止める方法をしてくれているのだ!』とポジティブに受け止めてみた。

『よし!これで大丈夫です!』

そう言って微笑む支配人の心遣いに自分はまた胸熱くなり、 『有り難うございました。』と一礼をした。

その瞬間、自分の眼は上から下に滑り落ちる白い物体を見た。

それは頭に乗っていて確実に固定されたはずのガーゼだった。

まさかの奇跡(ミラクル)に熱くなった胸は直ぐに温度を低下させた。

『やっぱりダメでしたか。』静かに悔しそうに呟く支配人の横顔を見ながら三秒前には 『よし!これで大丈夫です!』と宣言していた支配人の言葉を思い出す。

自分の心は別の場所から、そうそれは怒りという沼から熱を静かに放ちはじめた。

そして自分の脳裏に明智光秀の三日天下を上回る【三秒天下】という造語が組み立てられた。 悪気がないのは、痛いほど判るのだ。

むしろ優しさが溢れている。

優しさに溢れすぎている。

溢れすぎているからこそタチが悪い。

そんな優しさ溢れる支配人に向かって無下に罵倒することなどできるはずがない。

それは自分の優しさが確実に息づいているからだ。

しかしこうして優しさと優しさが出会い、ぶつかっているというのに、温まることもなく、昇華されることもなくホテルのロビーにて、出口のあてもなくし彷徨う光景は憤りを越えて悲しみを呼び起こす。

申し訳なさそうな表情で覗き込む支配人の顔を見て、自分は考えた。

支配人が悪いのではない。元々は怪我をした自分が・・・いや、そもそもは車のドアをおもちゃで遊ぶみたいに吹きすさび暴れる台風が悪いのだ。

そんな答を導いた自分は自分よりも二十年は長く生きているだろう先輩に心の中で『この野郎』と思ってしまった自分を戒め、おそらくその時その場所で一番的確な言葉を優しく投げかけた。

『タウンページ・・・ありますか?』

その日初めてロビーにいる僕等のなかで小さな笑顔が生まれた瞬間だった。

優しさと狂気は何時の時代も紙一重だ☆

せめて優しさを出すときはしっかりと考える余裕をつくってから世の中に産み落としていきたいものである☆


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