群雄割拠入り乱れる東京の小劇場シーンのなか、特にこれといった目標もなく役者として活動をしていた漢（おとこ）がいた。

彼の名前は岩☆ロック。

それまではハードコアパンクやアバンギャルドな音楽を愛し、気ままに演奏するのが、趣味といっちゃ趣味だったどこにでもいる人間である。

それが良くも悪くもある彼持ち前のノリによって演劇というフィールドに身を落とし、表現を紡いでいくことになる。

 

ある日、彼が客演をしていた劇団の主宰の『あんたも物語の一つでも書いてみればいいじゃない！』とのフリと呼ぶにはあまりにも行き当たりばったりな一言に、これまた後先考えないノリでかえす形で執筆を開始する。

演劇という世界に身を投じてまだ一年がようやく過ぎようとしていた頃だ。

演技の勉強をしたわけでもなく、まして脚本を書く勉強や演出なんてまるでしたことが無く、またツテというツテもない。

現実を知らないが故の無鉄砲さで彼は『Suicide Project』という本を書き上げた。

そして嬉し恥ずかし気持ちを抱えながら主宰に本を見せたところ、『じゃあ、やればいいじゃない！』と一蹴。

彼は色めきだった。自分が出演するこの劇団で自分の書いた本を生かしてくれるのかと。

その思い空しく主宰は言った。『馬鹿言うんじゃないよ！自分でやるんだよ！』

彼の心にノリという一陣の風が吹き抜けた。彼は『はい。』と本気かどうかも分からぬテンションで応えて自らが演出をすることにし、劇場を押さえてしまう。

これが岩☆ロック座の始まりである。

 

その後岩☆ロックは役者として様々な劇団や映画に参加する一方、岩☆ロック座として、『In LIMBO』、『２P』、『Reverberate』、『With Or Without You』、『Straight To Hell』と本公演を敢行し、それ以外にもファッションショーのDJや、映画脚本、自身の所属するバンド『Polinesian Gold Spa Courtons』のLive、演劇、ダンス、ポエトリーリーディング、音楽などが入り乱れる不定期パフォーマンス集団『えれくとろすなっく奈津美』の主宰も勤め、最近ではAsia Gold Pro Wrestlingの一員として東京都よりヘブンアーティストに認定され、劇場を飛び出し様々なパフォーマンスの活動場所を拡げている。

 

彼独特の見た目のうさんくささ派手さとは裏腹に、彼の紡ぐ物語は人間のありとあらゆる悲劇を喜劇化し、そのファクターを通し昇華することによって生じる人間の奥深さを露わにし、笑いながらも作品によっては憤り、また違う作品によっては感動を呼び覚まし尚、登場人物の編成を最小限に抑えることで喜怒哀楽の人間模様を色濃く映し出す事に成功している。