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Love&Peace,Destroy#2

カーテンの隙間から零れる光で長渕は目を覚ました。

隣で寝ている悦子を起こさぬよう、優しく毛布を悦子にかけベッドを降りる。

そんな彼の一日を祝福するかのように陽光が彼を照らす。

そして浮かび上がるは生まれたままの姿…即ち全裸。

しかし、そこに佇むのはメディアでは『アニキ』と様々なアーティストから崇拝される男の中の男然とした彼とは思えない程痩せ細った体。

正拳付き一 発放っただけで壊れてしまうのではないかと誰もが脳裏に浮かべるであろう姿の彼は、やはり悦子を起こさぬようにと忍び足で部屋の外へ出た。

そして向かう部屋はクローゼットルーム………。

『流石にこの季節は寒くて叶わねぇや』と呟く口元から白い息が淡く舞う。

クローゼットルームの扉には『立入禁止』のステッカーが貼られている。

音もなくその扉を開けると部屋一面には筋肉質な外観のモビルスーツが並べ置かれている。

その数はゆうに百を越える程だ。どれも隅の隅までリアルなディティールだ。

『今日はこれにするか…』掴んだモビルスーツの背中には誰も見て取れない程の細いチャックが腰まであり、彼は使い慣れた手つきでそれを着込む。部屋の中央にぶら下がったスポットライトの下に立つ長渕……鏡台に写る姿は、ここ五年は誰もが見た事のある筋肉質で意味もなく上半身裸になりギターを掻き鳴らす彼の姿が確かに映っていた…………

としたらどうしよう!?と長渕剛の筋肉維持方法という自分の人生の中でも最上級に意味を持たない事に対してはた迷惑な危惧感を失礼極まりなく考えていたのには理由があった。

化けの皮被りすぎて己を見失うという事はロックという音楽に心まで浸った輩なら一度くらい経験があるだろう(事を祈る)。

そう、人の中身なんて結局分からないのである。

前のことだが、帰りの電車の中、鋲ジャン、モヒカン、ピアスというあからさまに退廃的なパンクの恰好をした若者が座っていた。

誰も彼の周りに近付けない…そんな空気を出している満員電車の微妙な空気の中、ある老人が彼の前に立った……皮ジャンには下手くそな字でFUCKと書かれている…そんな素敵な御召し物と TATOOで己を彩るセンスを見せる彼はすかさず老人に席を譲ってみせた☆

他のサラリーマンもOLも老人見ても見て見ぬフリして席も譲らないなかモヒカンパンクスはやってくれた。

『ありがとう』という老人の言葉に照れ笑いで会釈するナイスガイ…死語だとしてももう一度大きな声で言わせて欲しい……『お前ナイスガイだよ!』

そんなちょっと心がほっこりしたのもつかの間、そこは満員電車の中☆

彼の鋲ジャンに刺さり尖りちらかした鋲が横で佇んでいた自分の服の上から刺さってくる。

こちらこそこの季節故、防寒対策はしていたが、それにしてもその鋲の尖り具合といったら、果物が刺さっちゃうレベルであったのだ。

心のなかで自分は叫んだ☆

お前いいやつなのに!!!きっととってもイイヤツなのに!

何?この仕打ち?お前やっぱりパンクだ!

お前の優しささんざ見せられてオチ俺かい!!!?

そんな満員電車で歌いたいロックの名曲☆THEBLUEHEARTSの『人にやさしく』

♪人にやさしくしてもらえないんだね

僕が言ってやる でっかい声で言ってやる

聞こえるかい?

がんばれ!!!!!


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